本研究では、イヌの腸骨由来の骨髄間葉系幹細胞(MSC)を用いて象牙質再生の可能性を検討することを目的としているが、まず用いる細胞が多分化能を有しているか否かをin vitroにて骨、軟骨、脂肪への分化誘導を行い検討した。骨および脂肪への分化能は、単層培養にて培養後28日目にアリザリン染色およびオイル赤O染色にてそれぞれ検討した。アリザリン染色では、強い染色性を呈したことから骨への分化能を有していることが判明した。オイル赤O染色では、わずかではあるが細胞の染色が認められ、5-10%程度の細胞が脂肪細胞に分化した。軟骨への分化能は、ペレット培養を行い、培養21日で切片を作成しトルイジンブルー染色を行ったところ外周では軟骨への分化がみられたが、中心部では分化していなかった。これらの結果は、GFPを遺伝子導入した細胞でもほぼ同様の結果となった。 また、in vivoの実験としてイヌの歯牙を用いMSCによる歯髄および象牙質再生について検討した。ビーグル犬(14週齢メス)上顎犬歯に生活歯髄切断を施し、あらかじめ用意しておいたGFPを遺伝子導入した自己のMSCをアテロコラーゲンと混和(2X10^7cells/ml)し充填した。コントロールは、アテロコラーゲンのみを充填した。上部はアパタイトライナー、グラスアイオノマーセメント、さらにコンポジットレジンにて封鎖し、30日後に歯牙を取り出し、切片作成し観察したが、歯髄が壊死していた。おそらく、生活歯髄切断時にテクニック的な問題があったものと思われる。 さらに、前記したin vitroの実験結果では分化能に問題があると考え、ペニシリンカップ法にてシングルコロニーを10株採取し、脂肪分化誘導を行ったところ、そのうちの1株は、70%程度の細胞が脂肪細胞へと分化し、オイル赤O染色で強い染色性を認めた。このことから、in vivoの実験においても細胞の選択は必要であると考える。
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