現在、無機質の脱灰抑制と有機質であるコラーゲンの崩壊抑制も必要とされる齲蝕進行抑制剤としてにフッ化ジアンミン銀(サホライド)が用いられているが、塗布後に銀成分に起因した歯質の黒変が起こることからその使用は主に乳歯に限定されている。これまで申請者は、歯質の黒変を防ぐためサホライドの銀成分をシリカに置換したフッ化ジアミンシリケートを調製して齲蝕予防効果を評価した結果、フッ化ジアミンシリケートがサホライドと同等の齲蝕予防効果を有することを報告してきた。そこで本年度は、フッ化ジアミンシリケートの齲蝕進行抑制効果について検討を行った。まず、フッ化ジアミンシリケート処理後のコラーゲンのアパタイト誘導能について評価を行った。ヒト抜去歯より象牙質プレートを調製し、EDTA処理により象牙質プレート表面のスメア層を除去し、コラーゲン線維を露出させた。フッ化ジアミンシリケート溶液を3分間綿球で塗布した後、擬似唾液中に7日間浸漬、攪拌を行った。擬似唾液中のカルシウムおよびリン濃度変化を定期的に測定するとともに、象牙質プレートへのアパタイトの形成を燥作型電子顕微鏡で観察を行った。また象牙質プレート表面に生成された結晶性物質の組成分析をX線マイクロアナライザーにて行った。その結果、擬似唾液中のカルシウムおよびリン濃度は経時的に減少し、擬似唾液からリン酸カルシウムが析出していることがわかった。象牙質プレートの電子顕微鏡観察では、ハイドロキシアパタイト様の結晶が表面に堆積しており、コラーゲン線維にも強固に付着していた。結晶の組成分析の結果、カルシウムとリンがCa/P=1.4(モル比)の割合で検出されカルシウム欠損アパタイトが析出していることが確認された。したがってフッ化ジアミンシリケートは擬似唾液からアパタイトを析出させる効能を有していることが示唆され、齲蝕進行抑制剤としての有用性が期待された。
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