本研究は、歯髄幹細胞をヒト歯髄組織よりクローン化し、ティッシュエンジニアリングの技術を応用して人工象牙質を作製する基盤技術を開発することを主眼としている。特に平成14年度はヒト歯髄より分離培養した歯髄細胞の培養を行い、次にこの細胞集団からヒト歯髄幹細胞(human pulp stem cell : HPSC)が存在するか否かを免疫不全症マウスへの皮下移植実験を用いて検索することを目的とした。 神奈川歯科大学付属病院に来院した被験者よりヒト抜去智歯歯胚を採取した。なおヒト歯胚は文部科学省、厚生労働省、経済産業省の三省から共同で告示された「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を遵守し、神奈川歯科大学歯学部に設置された倫理委員会の承認を得て、インフォームドコンセントが得られた被験者より採取した。歯胚から歯髄組織を採取し、コラゲナーゼ処理により段階的に細胞を8分画採取し分離培養後、ascorbic acid、dexamethazone、β-glycerophosphateを含むα-MEM培地で培養した。さらに、得られた各分画の細胞をそれぞれ免疫不全症(SCID)マウスの皮下に埋入し、硬組織の形成を検討した。4週間移植後、移植片を採取し組織形態学的にHE染色で観察したところ、すべての分画の細胞群において、硬組織の形成は見られなかった。この原因は、細胞採取時に歯根膜細胞、歯槽骨細胞等の歯胚周囲組織の細胞が混入したため、HPSCの細胞分化に必要な微小環境が提供出来なかったことが考えられた。そこで、次年度は顕微鏡下で象牙芽細胞、前象牙芽細胞層および歯髄細胞の複合体を採取することにより、周囲組織由来の細胞の混入を防ぎ、再度HPSCの同定を行う予定である。
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