本研究は、歯髄幹細胞をクローン化し、ティッシュエンジニアリングの技術を応用して人工象牙質を作製する基盤技術を開発することを主眼としている。平成14年度はヒト歯胚から得られた培養歯髄細胞を免疫不全症(SCID)マウスの皮下に埋入し、硬組織の形成を検討したところ、硬組織の形成は見られなかった。この原因は、細胞採取時に歯根膜細胞、歯槽骨細胞等の歯胚周囲組織の細胞が混入したため、ヒト歯髄幹細胞の細胞分化に必要な微小環境が提供出来なかったことが考えられた。 そこで15年度そよより分化程度の低い歯胚から細胞を採取し、象牙芽細胞への分化能を有する細胞を採取する方法の確立をめざすこととした。実験は、まずマウス歯乳頭由来細胞(Mouse Tooth Papillary Cell; MTFC)にレトロウィルス・ベクターを用いてヒト・パピローマウィルス遺伝子であるE6を導入することにより細胞の不死化による長期培養の可能を図った。次に不死化したMTPCをアスコルビン酸、デキサメサゾン、β-グリセロ燐酸を含むα-MEM培地で3週間培養した。対照として、ヒト由来間葉系細胞を用意した。それぞれの培養細胞からトータルRNAを回収後、RT-PCRを行ったところ、bone sialoprotein osteopontin、osteocalcinはいずれの細胞でも発現が認められた。しかしながら、ヒト間葉系細胞は象牙芽細胞の分化マーカーであるdentin sialophosphoprotein (DSPP)の発現を認めたのに対して、MTPCではDSPの発現を認めることはできなかった。 今後は、in vitroにおける培養条件の設定を検索していく必要があると考えられる。
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