平成14年度 実験動物には、生後8週齢のウイスター系雄性ラットを用いた。動物は、エーテル麻酔下にて、下顎左側第一臼歯をラウンドバーにて露髄後、そのまま放置し、歯髄炎および根尖性歯周組織炎を惹起させた。露髄後、3、7、14、28日後に屠殺し、下顎骨を摘出した。その後、下顎骨はEDTA-グリセリン溶液で低温脱灰を行った。脱灰後、下顎骨をパラフィンに包埋し、連続切片を作製した。作製した切片は、HE染色と酒石酸抵抗性ホスファターゼ(TRAP)染色、アルカリホスファターゼ(ALP)染色を行い光学顕微鏡にて観察した。 その結果、露髄後3日では、損傷受けた歯髄には軽度の炎症性細胞浸潤が認められ、一部壊死しているものも認められた。根尖部歯槽骨においてはTRAP陽性の多核細胞、すなわち破骨細胞の存在は僅かに認められたのみであった。また、ALP活性は損傷された歯髄直下や根管象牙質表面に認められ、根尖部歯槽骨ではALP陽性の骨芽細胞が多数認められた。 露髄後7日では、露髄直下の歯髄組織には好中球およびマクロファージが多数認められた。露髄後3日に比較して強い炎症性細胞浸潤が認められた。根尖部歯槽骨においては、TRAP陽性の破骨細胞は露髄後3日に比較して多数認められ、ALP陽性の骨芽細胞が配列を乱し骨面から離脱したものが認められた。 露髄後14日では、歯冠側1/2の歯髄組織は壊死に陥り、根尖部1/2の歯髄組織と根尖部歯根膜組織には露髄後7日よりも多くの好中球およびマクロファージが認められた。根尖部歯槽骨においては、TRAP陽性の破骨細胞は露髄後7日に比較して多く認められ、根尖部歯槽骨表面に多数のTRAP陽性の破骨細胞が認められた。歯根膜細胞は組織学的にALP陰性を示していた。露髄後28日では、歯髄は全体的に壊死に陥り、根尖部には膿瘍が存在し、根尖部歯根膜組織の炎症性細胞浸潤は露髄後14日よりも強くなっていた。好中球およびマクロファージは膿瘍周囲を中心に多数存在していた。根尖部歯槽骨においては、TRAP陽性の破骨細胞は露髄後14日とほぼ同様で多数認められた。また、歯槽骨の形成の活発な部位ではALP陽性の歯根膜細胞や骨芽細胞が認められた。 今後はこれら骨系細胞の動態と細胞接着因子および炎症性サイトカインとの関連を免疫組織化学的に検索していく予定である。
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