まずは、現有システムのバージョンアップを図った。具体的には、現有パソコンにリアルタイム3次元座標計測ソフト(ライブラリー・Radish)を搭載することにより、3次元計測のリアルタイム化が可能となった。得られる計測値とこれまでの計測結果との精度検定を行ったところ、左右・上下方向成分で1/1000mm、前後方向成分で1/100mmオーダーの誤差が確認された。しかし、咀嚼運動解析結果の検証を行ったところ、これまでの報告と同様の結果が得られ、リアルタイム化に伴う影響は無かった。 次に、咀嚼運動時の下顎運動と下顔面皮膚上の運動の時系列データに対して、MEMスペクトル解析(ジー・エム・エス・MemCalc/Win)を行った。 1.下顎運動 咀嚼運動のspectrumで最も大きなpowerを示すmaximum peakが出現する周波数は、これまでの時間領域における咀嚼周期の報告と比較検討した結果、ほぼ同じであった。このことから、maximum peakが出現する周波数は、咀嚼運動の最も基本的な周波数である咀嚼周期と考えられる。また、spectrumのpeakは、maximum peakの高周波域にみられたが、低周波域には認められなかった。 2.下顔面皮膚上の運動 下顎運動のspectrumとは異なり、maximum peakの低周波域と高周波域にたくさんの側帯域波が認められた。しかし、maximum peakが出現する周波数には一定の傾向があった。習慣性咀嚼側での咀嚼運動では、全ての測定点でmaximum peakの出現する周波数域が下顎運動のそれとほぼ一致した。一方、非習慣性咀嚼側では、全ての被験者において、上唇部の咀嚼側測定点の左右方向成分で下顎運動のそれとは明らかに全く異なる周波数域に出現した。 今後、口唇周囲軟組織特有の運動成分を区分するためには、側帯域波のより詳細な検討が必要である。
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