研究概要 |
I.目的 本研究では咀嚼機能の観点からみた片側性遊離端義歯の人工歯部歯列の近遠心径についての臨床的示唆を得ることを目的としている.初年度は実験的に下顎片側性遊離端義歯を対象にして人工歯部歯列の近遠心径を変化させた時にこれが咀嚼の混合能力に及ぼす影響を検討した. II.方法 被験者は下顎第一,第二大臼歯の遊離端欠損を有しかつ対合には天然歯もしくは固定性の補綴装置が装着されている患者6名(男性2名,女性4名,平均年齢61.5歳)を選択した.実験義歯は片側性の設計で白金加金を用いてワンピースキャストで製作した.下顎第二小臼歯に近心レストとバックアクションクラスプ,下顎犬歯および第一小臼歯にエンブレジャーフックを設置した.人工歯部歯列の頬舌径は顎堤頂を中心軸として幅を7mmとし,光重合レジンを用いて口腔内で直接製作した.人工歯部歯列の近遠心径は以下の4種類(A〜D)に変化させた.Aは欠損部に隣接する下顎第二小臼歯の遠心面から対合の上顎第二大臼歯の遠心面(平均22.0mm)までとした.順次近遠心径を15,10,5mmとし,それぞれB,C,Dとした.咀嚼機能の評価は当教室で開発した混合能力試験で行い,被験試料を義歯装着側で10回咀嚼させ混合値(MAI)を算出した.3回試行しその平均値を各歯列の代表値とした.各歯列間の比較はTukey法により有意水準5%で行った. III.結果とまとめ 歯列の近遠心径がAとBの間には,混合値に有意な差は認められなかったが,AとCおよびAとDの間には有意差が認められた.この結果から,人工歯部歯列の近遠心径を15mmより短くなると混合能力が減少すると考えられる.このことから,下顎の片側性遊離端義歯において人工歯の近遠心的配列を第二大臼歯の近心の半歯分までに留めて設定しても咀嚼機能の回復が得られることが示唆される.
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