研究概要 |
パラトグラム法が摂食嚥下障害者の食塊形成障害や食塊の咽頭への送り込み障害の診断に利用できるか否かを検討した.被験者は,摂食嚥下機能に異常を認めない本学学生ボランテイア5名と,摂食嚥下の準備期および口腔期における摂食嚥下障害をもつ患者4名とした.黒色塩化ビニールシートを記録床として用い,摂食臓下障害者の構音訓練に用いられる「タ」,「ナ」,「ラ」,「キ」,および唾液嚥下のパラトグラムを記録した.被験語「タ」,「ナ」は舌前方および舌側縁による食塊形成能力,被験語「ラ」は舌尖部による食塊形成能力,被験語「キ」は舌後方部の挙上による食塊の咽頭への送り込み能力,ならびに嚥下のパラトグラムは舌背部の挙上による食塊の咽頭への送り込み能力にそれぞれ関連する. 以下の結果と結論を得た.1.全ての症例において被験語「タ」,「ナ」のパラトグラムには異常は認められなかった.すなわち,本症例にみられる食塊形成障害は,舌前方および舌側縁と口蓋との接触異常が原因ではないことが示唆された.2.食塊形成障害がみられた症例に,被験語「ラ」のパラトグラムにおいて異常が認められた.このとこから,本症例にみられる食塊形成障害は,舌尖と口蓋における食塊形成能力の異常によるものと推察された.3.食塊の咽頭への送り込み障害がみられた症例に,被験語「キ」および嚥下のパラトグラムにおいて異常が認められた.よって,本症例にみられる食塊の咽頭への送り込み障害は,舌の挙上能力の低下が原因であると考えられる. これらの症例を通して,パラトグラム法が摂食嚥下障害者の食塊形成障害や食塊の咽頭への送り込み障害の診断に利用できる可能性が示された.
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