本年度は、口腔内をシミュレートした環境中において試料に一定荷重を負符し、破断するまでの時間を測定することによって材料の寿命評価を行った。口腔内環境として歯面塗布液や歯磨剤の影響を考慮するため、酸性および中性のフッ化ナトリウム水溶液を用い、矯正歯科用線として広く使用されているニッケル-チタン超弾性合金を主に調べた。フッ化ナトリウム水溶液中(pH 5.0)において定荷重負荷されたNi-Ti超弾性合金は、水素を多量に吸収し遅れ破壊することが明らかになった。負荷応力がマルテンサイト変態開始応力以上になると水素吸収が促進され、破断するまでの時間が著しく短くなった。このことはマルテンサイト相の水素感受性が母相より高いことを示唆している。昇温による水素放出が400-500℃の高温にあることから、水素が試料中に強くトラップされていると思われる。また、X線回折から、試料中に水素化物の生成も確認された。水素吸収量、破面観察などから酸性フッ化ナトリウム溶綾中におけるニッケル-チタン超弾性合金の遅れ破壊は水素脆化によるものと考えられる。一方、中性フッ化ナトリウム水溶液中においても、酸性フッ化ナトリウム水溶液と比較すると破断時間は長くなるが、ニッケル-チタン超弾性合金が遅れ破壊することがわかった。水素吸収量が少ないことや破壊形態などから、中性フッ化ナトリウム水溶液中における破壊機構は活性経路割れが支配的であると考えられた。また、中性フッ化ナトリウム水溶液中でも負荷応力がマルテンサイト変態開始応力以上になると、破断時間が短くなることからマルテンサイト相の腐食に対する感受性の高さが示された。
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