臨床で用いられる加熱重合型床用アクリルレジンにNiTi形状記憶合金、超弾性合金繊維を埋め込んだ試料を作成し、曲げ破断後加熱することで形状を回復させた際の形状変化について検討した。その結果、以下の知見を得た。 (1)形状記憶合金繊維に予歪を与えてから埋め込んだ試料では、レジン中の繊維配向が改善され審美性が向上した。また、繊維埋め込み後の加熱によってレジン中で予歪が開放された試験片では繊維端部に空隙や光学的歪が認められ審美性が低下していたが、予歪が開放されなかった試験片ではそのような欠陥は認められなかった。しかし、予歪が開放されなかった試験片では、破断後の加熱時に繊維の逆変態にともなう収縮が生じ試験片の顕著な変形が認められた。このような変形は床義歯の適合性を悪化させることから、繊維の予歪は試料作成中に開放する必要があることがわかった。 (2)超弾性繊維を埋め込んだ試料では試験片のたわみ量が大きく、床義歯の適合性を低下させると考えられた。しかし繊維をレジンで挟み込んで試料中立面に設置した試験片ではたわみは微小であり、適合性に影響しないと考えられた。また、埋め込み試料では修復温度が高くなるとたわみ量が減少することがわかったが、これは同時に修復後の変形量が増加することであり修復の精度の点では問題であった。一方、挟み込み試料では修復温度によらず修復後の変形量は微小であった。また、両試料とも修復後のクラック幅自体は修復温度が高い程増加しており、修復温度を下げる必要が認められた。以上より、超弾性繊維を中立面に埋め込んだ試料は低温で修復することにより優れた修復精度を示すと考えられたが、床義歯中立面に繊維を設置することは臨床的には困難であることから、実用的ではないと考えられた。
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