重合基を持つヘム蛋白質を合成する目的で、ヘム蛋白質としてはチトクロームCを、メタクリル基を有する物質としてはメタクリロイルイソシアネート(分子量111)を用いた。チトクロームCの象牙質用プライマー成分しての有効性は、接着試験、接着界面の電子顕微鏡観察と、レジンの重合試験の3つの実験によって明らかにされていた。本年度はその結果を論文にまとめ、国際的学術雑誌に投稿し、受理された。一方、メタクリロイルイソシアネートは広範囲のアルコール、フェノール、アミンなどと触媒なしで容易に反応するうえに、ラジカル開始剤により重合するモノマーである。そこでチトクロームcとメタクリロイルイソシアネートを30分から5時間反応させ、水あるいはアセトンで洗浄し、乾燥した。IRやFTIRを用いて分析した結果、反応前のチトクロームcに比べ、当該生成物では1600〜1650cm-1付近の吸収スペクトルが増加する傾向を認めた。 また、蛋白質に酸無水物を作用させると、蛋白質のLys側鎖やε-アミノ基と反応してアシル基が結合するアシル化反応が知られている。メタクリル基と酸無水物の両方を有する4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物(4-META)は、このアシル化反応によってヘム蛋白質に結合する可能性が高い。そこで、チトクロームcを含有するプライマーと、4-META含有の接着剤を用いて象牙質を接着し、4-METAを用いないコントロールと接着強さを比較したところ、チトクロームcと4-METAの併用効果が統計的に示された。 さらに象牙質と接着するために、歯科用金属の被着面処理に関しても検討した結果、フッ化水素アンモニウムと塩化銅を含有するエッチング剤が、歯科用純チタンの接着性改善に有効であることが明らかになった。
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