平成15年度は牛海綿状脳症(BSE)に関連する諸問題のため、牛海綿状脳症対策特別措置法第7条第2項の規定に従って牛の特定部位使用申請を行い、許可を得てはじめて試料として使用予定していた牛歯を入手することができた。実験では以下のような接着システムを試作し、牛象牙質との接着強さの評価を中心に行った。分子量12384の馬心臓由来のチトクロームc O.005gと分子量111のメタクリロイルイソシアネート0.45gを常温で24時間反応させた後、アセトンで数回洗浄し、沈殿物を乾燥して生成物を得た。当該生成物を0.2重量%と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を35重量%含有する水溶液を象牙質用プライマーとして準備した。研削した牛象牙質を10重量%リン酸水溶液で30秒間エッチング処理した後、本プライマーを塗布し、ポリメタクリル酸メチル、トリブチルホウ素重合開始剤から成る化学重合型レジンを用いて金属棒と接着した。接着後24時間経過してから、オートグラフを用いて接着強さを求めた結果、19.5MPaが得られた。この値はエッチング処理だけでプライマー塗布しなかった場合の2.8MPaや、エッチング処理後に35重量%HEMAのみを含んだ水溶液をプライマー塗布した場合の4.2MPaに比べて高く、また市販の接着性レジンセメントの場合と比べても同等以上であった。当該生成物中には未反応のチトクロームcの混在が否めないが、チトクロームcだけをアセトン処理しても当該生成物と同じような外観、性状とはならないことから、メタクリロイルイソシアネートとチトクロームcの複合体の効果が示唆されたといえる。さらに象牙質と接着するため被着体金属側に関しても検討した結果、リン酸と低濃度フッ化水素アンモニウムを含有するエッチング剤がチタンに有効であることがわかり、象牙質と金属が同じ処理液で簡単に処理できる可能性も出てきた。
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