顎顔面口腔領域における口腔心身症の定量的診断法の確立に向け、研究1年目の本年度はまず健常成人を対象として検討を行った。調査方法は、まず健常成人ボランティアに対して、不安・抑うつ・心気傾向といった心理的因子の評価を行うために各種心理テスト(Hospital Anxiety and Depression scale、State-Trait Anxiety Inventory test、Somatosensory Amplification scale)を施行し、その後歯科ユニット上において(1)仰臥位安静、(2)心理的ストレス負荷検査(ミラードレインテスト)、および(3)患者自身が制御可能な方法を用いた疼痛負荷検査(ペイントレランステスト)を行い、同時に各検査時における持続的な自律神経活動解析を心電図R-R間隔を用いて行った。さらに、検査後には心理テスト結果、疼痛閾値検査結果、および自律神経活動解析結果のそれぞれについて検討するとともに、各結果間の相関関係の有無について検討を行った。その結果、口腔心身症患者は殆どの患者において高い不安・抑うつ状態、心気傾向が認められるのに対し、健常成人では、ほとんどの症例において不安・抑うつ・心気傾向は認められず心理的因子は正常範囲内であった。しかし健常成人の中でも、特に強い不安傾向を有している症例では疼痛閾値は低下している傾向がみられ、さらに自律神経活動解析においても交感神経系活動が高まっている傾向がみられた。以上より、心理的因子のうち強い不安傾向を有している患者では疼痛閾値が低い可能性があり、さらには交感神経活動も高まっている可能性が示唆された。この結果をふまえ次年度では、口腔心身症患者を対象とし、本患者における自律神経活動解析を調査するとともに、定量的診断に対する本検査方法の有用性について併せて検討を行う。
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