口腔心身症の定量的診断法の確立に向け、本研究に同意の得られた健常成人ボランティア(以下、健常群)、口腔心身症患者(以下、心身症群)を対象に研究を行った(対象年齢20〜65歳)。まず心理的因子の評価として各種心理テスト(Hospital Anxiety and Depression scale、State-Trait Anxiety Inventory test、Somatosensory Amplification scale)を施行し、続いて(1)仰臥位安静、(2)心理的ストレス負荷検査(ミラードレインテスト)、及び(3)疼痛負荷検査(ペイントレランステスト)を施行した。なお各検査中は心電図R-R間隔測定による持続的自律神経活動解析を行った。その結果、心身症群は健常群に比べて心理テストでは有意に不安・抑うつ得点が高く、また心気傾向にういても有意差はみられなかったものの得点が高い傾向が認められた。また心身症群では健常群に比べて疼痛閾値が低下している傾向がみられ、この傾向は特に心理テストの不安得点が高い症例ほど強く認められた。さらに各負荷試験時の自律神経活動解析結果では、各試験施行時に交感神経指標としてのLF/HFが上昇し、交感神経系活動が高まる傾向が両群ともにみられたが、心身症群ではその傾向は比較的強く、特に心理テストの不安得点が高いほど、負荷試験時の交感神経系活動の上昇が健常群よりも強く認められ、さらに副交感神経指標としてのHFも低下している傾向が認められた。今回の研究結果より、口腔心身症患者では疼痛閾値が低く、さらに交感神経系活動の易上昇性、副交感神経系の低下傾向を示す可能性が示唆され、特に不安傾向が強い患者ではこの傾向が強い可能性が示唆された。しかし自律神経系活動については各病態によるばらつきがみられたことから、今後診断への応用に向けさらなる検討が必要であると考えられた。
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