プロスタグランジンは生体内において、その受容体に特異的に結合することでシグナル伝達を行い、炎症反応を修飾し、調節していることが明らかになってきた。しかしながら個々の炎症反応についてはその詳細は不明な点が多い。本研究は顎関節症におけるプロスタグランジンの関与と顎関節炎における炎症反応の進展への関与を明らかにし、顎関節症の病態を把握することが目的であった。 炎症に関わるプロスタグランジンのひとつであるプロスタグランジンE2受容体は少なくとも4種存在する。ヒト顎関節内障患者由来の顎関節滑膜細胞においてRT-PCR法にてEP2のみが高発現していることが確認した。それ以外のEP1、EP3およびEP4については確認できなかった。EP2の発現は、6株のヒト顎関節内障患者由来の顎関節滑膜細胞のみではなく、4株の正常ヒト顎関節滑膜細胞においてもRT-PCR法にて高発現が認められたため、それぞれの細胞株で発現しているEP2のDNAシークエンスを解析したところ、正常および顎関節内障患者、すべての細胞株、計10株において遺伝子の変異は認められなかった。解析株数が少ないため、明らかな言及はできないが、顎関節症におけるEP2受容体の遺伝子異常の関与は明らかにできなかった。京都大学医学部口腔外科学では年間約700名の顎関節症の新患を診療しており、今後は、当院「医の倫理委員会」に登録したうえで、新たな顎関節症患者に対し、遺伝子解析を行い、プロスタグランジンE2、特にEP2受容体の関与を追及していく予定である。
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