口唇口蓋裂(CL/P)の発症原因は未だ不明な点が多く、遺伝的因子と環境的因子の双方からなる多因子閾説が有力である。本研究では、口唇口蓋裂の遺伝的因子を解明するために精原細胞に突然変異を誘発し、口唇口蓋裂モデルマウスの作製とその変異遺伝子を解析しようとするものである。初年度である平成14年度はモデルマウスの作製を行った。ENU(N-ethyl-N-nitrosourea)を雄マウスに腹腔内投与し、雄精原細胞のゲノムに点突然変異をランダムに誘発させた。投与100日後より交配させ、優生遺伝形式をとるG1世代と劣性遺伝形式をとるG3世代の個体を得た。各系500以上の個体数を得、これらをすべて実体顕微鏡下で観察し、表現型のスクリーニングを行なった。その結果、CL/P自然発生系A/Jマウスでは、G1およびG3世代にともに、コントロール群に比較してCL/Pの発生率が増加していた。対照群として、CL/P発生が希で、他疾患モデルとの比較が容易なICR系マウスにおいても、CL/P発生が認められた。これらは、多遺伝子疾患であるCL/Pには最適なモデルであり、今までの実験系に比べ、よりヒトに近いモデルマウスを確立したといえる。現在、これらすべての口唇口蓋裂発現マウスの組織を-80度で冷凍保管し、組織からのDNAおよびRNAの抽出までが終了している。ここまでの成果は第16回国際口腔外科学会で報告する予定である。次年度はPCR-SSCP法にて候補遺伝子の変異スクリーニングを行い、変異の認められるサンプルについてはダイレクトシークエンス法にて塩基配列を決定する予定である。これら遺伝子異常を特定し、CL/P発生との関わりを直接明らかにすることが可能となり、各種の予防方法を症例ごとに最適化するオーダーメード医療へつながるものと思われる。
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