本研究においてはヒト口腔扁平上皮癌細胞株B88細胞を用いて抗癌剤によるアポトーシスの誘導と転写因子NF-κBの関連について解析した。 B88細胞を抗癌剤である5-フルオロウラシル(5-FU)或いはシスプラチン(CDDP)にて処理すると、B88細胞の細胞増殖能は濃度依存性に抑制され、これがアポトーシスの誘導によることを確認した。 B88細胞を5-FU或いはCDDPにて経時的に処理し、NF-κB活性を検索したところ、5-FU処理においてNF-κB活性の抑制が認められた。同様の結果はヒト唾液腺癌細胞株cl-1細胞においても確認された。すなわち5-FU処理によりcl-1細胞のNF-κB活性の抑制が認められ、抗アポトーシス蛋白のうちTRAF-2とcIAP-1の発現低下が認められた。この際、アポトーシス関連因子であるCaspase8とCaspase3の活性化が認められた。 一方、B88細胞をCDDPで処理すると抗アポトーシス蛋白の発現に変化は認められなかったが、アポトーシス関連因子cytochrome c発現増加に伴うCaspase9活性の上昇とその下流に存在するCaspase3の活性化が認められ、ミトコンドリアを介したアポトーシス誘導の可能性が示唆された。 細胞に変異型IκB-αcDNAを遺伝子導入することで、強制的にNF-κB活性を抑制した細胞クローンを作成し、これら細胞をTNF-αにて処理してもアポトーシスは誘導されなかった。この原因を解析したところ、TNF-αによるTRAF-1の発現誘導に起因している可能性が示唆された。そこで、TRAF-1の発現をアンチセンスオリゴヌクレオチド処理或いはアンチセンスプラスミドの導入により抑制した場合、アポトーシスの誘導が確認された。 以上の検索結果より、NF-κBおよび抗アポトーシス蛋白の抑制により腫瘍細胞のアポトーシス誘導の増強が確認された。
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