研究概要 |
従来,我々は唾液腺癌などを含む消化器癌の分化・増殖のメカニズムおよび分化誘導療法の開発に関する研究を行っている。この過程で,2-(1H)-キノリノンの基本骨格を保有した分化誘導剤であるベスナリノンが,唾液腺癌細胞TYSにおいてp21waf1遺伝子の発現を誘導し,細胞周期をG1期に停止させることで細胞増殖抑制効果を発揮することを明らかにした。本研究では,ベスナリノンによるp21waf1遺伝子の転写機構のさらなる解明を目的とした。まず,ルシフェラーゼアッセイを用いてp21waf1遺伝子プロモーターのベスナリノン反応性領域の同定し,さらにEMSAによりベスナリノンによるp21waf1遺伝子の転写活性化にいかなる転写因子が関与しているかを検索した。さらに,近年,遺伝子の転写活性機構に非常に重要な役割を演じているヒストンアセチル化機構に着目し,TYS細胞においてベスナリノンがヒストンアセチル化を誘導するか否かを検討した。以上のような実験から,TYS細胞におけるベスナリノン処理によるp21waf1遺伝子の発現調節は,転写因子Sp1が活性化され,Sp1サイトへの結合が促進し,そこにp300などがリクルートされた結果,ヒストンのアセチル化が誘導され,クロマチン構造が変化し,転写活性化が促進された結果だと結論づけた。このようにp21waf1遺伝子の転写調節機構を分子レベルで解明することは,単に特定の薬剤による特定の遺伝子の作用機序を明らかにすることのみならず,普遍的な分化誘導のメカニズムの解明につながり,分子標的診断あるいは分子標的治療の開発にもつながると考える。
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