生体は、生理過程の多くに日周期性のリズムを有しており、その変動はサーカディアンリズムとして知られている。各種生体調節機構はこの周期性変動のうえに成り立っており、申請者らは実験動物を用いたオートラジオグラフィーやin situ Hybridization法等により、顎顔面頭蓋部の硬組織代謝には、きわめて明瞭なサーカディアンリズムの存在することを明らかにしてきた。このことからすると、顎顔面頭蓋部に外力を加えた場合、その反応性にもサーカディアンリズムの存在する可能性が非常に高いことが推察されるが、これまで未解明であった。そこで下顎頭軟骨の外力に対する反応性に関する日内変動について、顎整形力の適用時刻の相違が下顎頭軟骨や骨組織の反応性に与える影響を細胞レベルで解明することを目的として一連の研究を行った。 成長期ラットに独自に開発した規格化チンキャップ装置によって一日のうちさまざまなタイムスケジュールで顎整形力を負荷した研究から、1)下顎頭成長抑制、2)下顎骨の変形、3)軟骨細胞増殖活性の抑制、4)軟骨細胞最終分化の抑制、において休息期(明期)に高い反応性を示す日内変動が認められ、休息期に活性化された細胞はメカニカルストレスに対する感受性の高いことを明らかにした。また肝臓・腎臓などの主要臓器や顎顔面頭蓋部の各種硬組織試料からRT-PCR法やin situ hybridization法などの分子生物学的手法により、末梢組織における時計遺伝子の発現を確認した申請者は、その動態の解析を行う次の研究に着手することができた。これらは医療に時間治療学的概念を導入する端緒となった点で、その基礎的知見のみならず臨床的な意義も大きいと考えている。
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