古くから、血管新生と骨代謝の間には密接な関係があるものと考えられており、最近の申請者らの研究結果から、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が血管新生のみならず、破骨細胞の分化誘導因子であることが解明された。この成果をもとに、今回申請者は実験的歯の移動時において骨芽細胞上に発現するVEGFの検索、およびVEGFの局所投与が歯の移動効率に及ぼす影響の検討を行った。その結果、実験的歯の移動中の歯槽骨牽引側に出現する骨芽細胞が、VEGFを発現していることが免疫組織学的観察により明らかとなった。また、歯の移動とVEGF局所投与の併用により、移動開始3日目に歯槽骨圧迫側に出現する破骨細胞数はコントロール群と比較して有意に増加することが明らかとなった。さらに、実験開始18日目から21日目にかけてVEGF投与群ではコントロール群と比較して歯の移動量が有意に大きかった。以上の結果から、歯の移動時には歯槽骨牽引側に出現する骨芽細胞がVEGFを発現し、血管新生を促すとともに、破骨細胞の分化を促進して骨のリモデリングに影響を及ぼすことが明らかとなった。また、歯の移動時にVEGFの局所投与を併用することにより破骨細胞による骨吸収が促進され、歯の移動効率が高まることが明らかとなった。これらの研究成果を踏まえ、今後は歯科矯正治療においてVEGFの臨床応用が可能となるよう研究を進めていくしだいである。
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