古くから、血管新生と骨代謝の間には密接な関係があるものと考えられており、最近の申請者らの研究結果から、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が血管新生のみならず、破骨細胞の分化誘導因子であることが解明された。また、申請者は実験的歯の移動時において骨芽細胞上に発現するVEGFの検索、およびVEGFの局所投与が歯の移動効率に及ぼす影響の検討を行った。これらの結果を踏まえ、今回申請者はVEGFの生理学的作用をブロックする中和抗体を用いて実験的歯の移動時に出現する破骨細胞数、および歯の移動距離について検討を行った。その結果、歯の移動開始3日後にVEGF中和抗体投与群において出現する破骨細胞数は、コントロール群と比較して有意に減少した。また、VEGF中和抗体を18日間連続投与した群における歯の移動距離は、コントロール群と比較して有意に抑制されていることが明らかとなった。以上の結果から、歯の移動時には歯槽骨牽引側に出現する骨芽細胞がVEGFを発現し、血管新生を促すとともに、破骨細胞の分化を促進して骨のリモデリングに影響を及ぼすことが明らかとなり、そのVEGFの機能を抑えることにより、破骨細胞による骨吸収を抑制し、歯の移動効率が低下することが明らかとなった。これらの研究成果を踏まえ、今後は歯科矯正治療後の後戻り防止の一方法として、VEGF中和抗体の臨床応用が可能となるよう研究を進めていくしだいである。
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