歯科矯正治療における不正咬合の改善は、歯に力学的刺激を負荷し、歯周組織の改造を誘導することによって行われる。歯に対して力学的刺激が負荷された環境下では、歯根膜腔に圧迫側と牽引側が生じる。このとき、歯根膜線維や血管組織へ過剰な圧縮・牽引力を負荷することにより、炎症性のストレスが加わる。歯周組織の改造過程では、(この炎症性の)分子シャペロンが重要な役割を果たしていると考えられる。分子シャペロンは、そのほとんどがストレスタンパク質(以下HSP)であり、生理的・病理的なストレスに伴い、タンパク質の構造変化が起こることにより誘導される。HSPは、細胞をストレスから守り、恒常性を維持する上で重要な機能を果たしていると考えられている。本研究では、力学的刺激による歯周組織改造機構における分子シャペロンの果たす役割を明らかにすることを目的とし以下の実験を行った。矯正的便宜抜歯により得られたヒト歯根膜より、分離培養した継代数5〜7代の数種類のヒト歯根膜線維芽細胞に力学的刺激を負荷した。力学的刺激負荷後、細胞破砕液を調整し、電気泳動用の試料とした。電気泳動後、各種ストレスタンパク質の経時的なタンパク発現をウェスタンブロッティング法により調べた。その結果、HSP60とHSP70において発現の増強が観察された。今後、他のヒト歯根膜線維芽細胞においてもその発現様相について調べ、発現を増強させる各ストレスタンパク質の経時的な遺伝子発現や細胞内局在の変化を調べるとともに、そのターゲットとなるタンパク質を同定することを検討している。
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