過去にフッ素の人為的な供給の履歴のなかった第3大臼歯の抜去歯20本をメノウ乳鉢を用いて粉砕し、32μmのふるいを通過させた。この粉末試料を200mgずつ2mlの次の4種の溶液に37℃の環境下で浸漬した。溶液は、900ppmおよび450ppmのフッ化ナトリウム溶液および31%の過酸化水素水、10%の過酸化尿素水を用いた。それぞれの溶液の浸漬時間は現在臨床で適用されている時間を考慮して、フッ化ナトリウム溶液に浸漬した両者とも浸漬時間を1時間および10分に設定した。また、過酸化水素水は15分、過酸化尿素は2時間浸漬した。それぞれの試料を浸漬後蒸留水で十分洗浄したのち、37℃で乾燥し、X線回折およびFE-SEMを用いて分析した。さらにX線回折図形の(300)面、(002)面からa軸およびc軸の格子定数を求めた。a軸は900ppmのフッ化ナトリウム溶液に1時間浸漬後の試料が浸漬前と比較して有意に減少した。(p<0.05)c軸は900ppmおよび450ppmのフッ化ナトリウムに浸漬した試料が浸漬前と比較した有意に減少した。(p<0.01、p<0.05)しかし、漂白溶液である過酸化水素水や過酸化尿素水に浸漬したものは格子定数に有意な差が認められなかった。粉末試料のFE-SEMからは各溶液の浸漬による大きな変化は認められなかった。以上の結果よりエナメル質の結晶はフッ化ナトリウム溶液に浸漬するとその濃度に依存してその格子定数に影響を与えることからフッ素の置換が行われていると考えられるが、一般に用いられている漂白溶液はエナメル質の格子定数には影響を与えないものと考えられた。
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