好中球は第一線の生体防御細胞であるが、好中球の過度の浸潤は、滑性酸素や蛋白分解酵素の放出によって、逆に炎症を促進させる。特にセリン系プロテアーゼであるエラスターゼは抗菌作用だけでなくコラーゲンなど細胞外マトリックスの分解作用や細胞障害作用を示すことが知られてる。 本研究は、好中球エラスターゼによる傷害作用の面とは逆に上皮系創傷治癒反応を積極的に制御している可能性とその制御機構を検討することを目的とする。上皮成長因子(EGF)レセプターは上皮系創傷治癒反応に密接に関連していることから、まずエラスターゼがEGFレセプターの発現にどのような影響を与えるのか検討した。口腔上皮由来細胞株であるHSCおよびKB細胞上にはEGFレセプタが発現されていることをフローサイトメトリーで確認した。好中球由来エラスターゼ(HLE)はEGFレセプタの発現を時間および濃度依存的に増加させ、1ナノモル、24時間刺激が至適条件であることがわかった。この発現誘導の実験系にエラスターゼの酵素活性に対するインヒビターであるアンチトリプシン、PMSF、あるいはエラスターゼ特異的インヒビター(HLE/CMK)を共存させたところ、ほぼ完全に発現誘導が抑制された。このことから、この反応には酵素活性を必要とすることが分かった。次に、この発現増加の機序を検討したするため、フォスフォリパーゼCの活性化インヒビターであるU73122を共存させるとHLEによるEGFレセプター発現誘導がほぼ完全に抑制された。さらに上皮細胞をパラフォルムアルデヒドで固定することでHLEの作用が消失することがわかった。これらの結果からHLEによるEGFレセプター発現誘導機構は細胞内シグナル伝達が関与していることが示唆された。
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