本研究はエラスターゼの炎症反応調節因子としての作用を検討した。まず、歯肉線維芽細胞に対するエラスターゼの影響を検討した。同細胞上に発現する炎症反応調節機構に重要なCD40に着目したところ、エラスターゼは細胞膜上でのProteolysisを介してその発現を消失させ、CD40からめ刺激によるケモカィン(IL-8およびMCP-1)の産生を抑えることを証明した(J.Leukoc.Biol.2002)。線維芽細胞による抗炎症作用に働くCD73 (J.Periodontal Res.2004)に対してはエラスターゼの分解作用は見られなかった。また、細菌由来のセリン系プロテアーゼ・ジンジパインを用いて同様の実験を行ったところ、CD14に対する同様の作用機序にてLPSに対するIL-8産生を低下させることが分かった(Infect.Immun.2002)。すなわち、生体の産生するプロテアーゼは過剰な炎症反応に対するフィードバック機構として、細菌由来のプロテアーゼは生体防御反応機構を低下に関与していることが示唆された。次に、歯肉上皮細胞に対するエラスターゼおよびジンジパインの影響を検討した。ジンジパインにおいては、上皮細胞上のICAM-1を選択的に分解し、ICAM-1を介した好中球との結合能が阻害されることがわかった。すなわち、上皮細胞においても生体防御反応機構を低下に関与していることが示唆された(J.Dent.Res.2003)。エラスターゼの上皮細胞に与える影響においては、上皮系創傷治癒に重要な各成長因子受容体に焦点を当てて検討した。上皮成長因子受容体(EGFR)に発現が僅かに高まることが蛋白レベルで分かった。この発現亢進機構には細胞内シグナル伝達過程でホスフォリパーゼCが関与していることがインヒビターを用いた実験から明らかとなった。
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