本研究課題実施2年目にあたる平成15年度は、昨年度の研究において開発したニッケル触媒を利用した二酸化炭素固定化反応を触媒的不斉合成反応へ展開することを試みた。以下、その方法と結果の概略を示す。 本研究代表者は既に分子両端に共役ジエン構造を有するビスジエン化合物を、触媒量のニッケル錯体とトリフェニルホスフィン配位子の存在下、1気圧の二酸化炭素および種々の有機亜鉛と反応させると、0℃という非常に穏やかな条件下、ビスジエンの環化反応および二酸化炭素、有機亜鉛試薬の付加反応が位置および立体選択的に同時に進行し、環状カルボン酸誘導体が高い収率で得られることを見いだしている。そこで今回、同反応を不斉反応へと展開すべく、種々の不斉配位子の存在下反応を行なったところ、(S)-MeOMOPを配位子として用いると高いエナンチオ選択性で同様の環化-カルボキシル化反応が進行し目的とする環状カルボン酸誘導体が化学収率80から100%、鏡像異性体過剰率90から96%eeで得られることを見出した。本不斉環化反応においてはジメチル亜鉛およびジフェニル亜鉛の利用が可能であった。さらに本反応を用いて、側鎖にカルボキシル基を有する種々のピロリジン誘導体などを立体選択的かつエナンチオ選択に、光学活性体として合成することができた。本反応は炭素-炭素結合形成反応を伴う二酸化炭素固定化反応としては初めての触媒的不斉合成反応であり、非常に高い選択性を示すことから、本反応はきわめて興味深い研究例と考えられる。またニッケル触媒を利用する触媒的不斉合成反応はパラジウムやロジウム錯体を用いる不斉反応に比べこれまで報告例が少なく、その点からも非常に興味深い。
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