研究概要 |
VRSAや日和見感染の原因菌に対して新たな作用機序を有する薬物の創製を目的として、本研究はすべての菌に共通な生合成中間体であるリピドIの形成を強力に阻害する核酸系抗生物質、リポシドマイシンに着目して化学合成による構造活性性相関の検討並びにそれを単純化した誘導体合成を行うものである。本年度は、合成経路の確立と絶対立体配置の決定を行うべく全合成研究を行った。ウリジン5'-α,β-不飽和エステル体にSharpless不斉アミノアルコール化を行い、5'-グリシルウリジンを立体選択的に合成した。本化合物はウリジンから5行程という短行程で効率的に得ることが出来る。極一般的なアシル保護基による隣接基関与を用いたβ-リボシドの構築法は、1)β-アシロキシエステル構造を複数有するリポシドマイシンにおいてはアシル基の脱保護に問題を有する、2)5'-グリシルウリジンの5'位アクセプター水酸基が反応性に乏しいことから、α面に立体障害を有するarmed糖供与体を利用したβ-リボシル化を検討した。糖供与体として5-アジド-2,3-イソプロピリデンリボースのトリクロロアセトイミデート、スルホキシドならびにフルオリドを調製した。トリクロロアセトイミデート、スルホキシドを用いて種々リボシル化を検討したところ、70-80%の収率でリボシル5'-グリシルウリジンを与えたものの、α/β選択比は1:1と選択性は全く観察されなかった。フルオリドを用いた場合、β選択性は向上し、活性化剤としてCp_2HfCl_2を用いた場合、α/β選択比25:75で目的とするβ-体を優先して与えることがわかった。得られたβ-リボシル5'-グリシルウリジンをカルボン酸に変換し、D-セリンから10行程で合成した4-Nメチルアミノ-1-ペンテン-3,5-ジオール誘導体を縮合し、3成分すべてが連結した化合物を80%の高収率で合成した。本化合物はさらに各種官能基変換を行い、鍵反応であるジアゼパノン環構築の環化前駆体へと誘導した。
|