研究概要 |
光学異性体の片方を効率良く合成する不斉合成法の開発は、医薬や農薬、液晶材料などの生産において非常に重要である。本年度は、遷移金属の特性、特にパラジウムに注目して新しい反応機構を提案し、それに基づいて新反応を開発する研究をおこなった。パラジウム上に水や水酸基が配位した錯体から、中性および酸性条件において生成するPdOH錯体を系内で一時的に発生する塩基として捉え、カルボニル化合物から直接キラルパラジウムエノラートが生成することを見い出した。それを用いて、これまでにない適用性をもつ触媒的不斉マイケル反応(1,3-ジカルボニル化合物のエノンへの1,4付加反応)の開発を行った。その反応機構に関しては、本来塩基であるPdエノラートと強酸(TfOH)が協同的に作用するという興味深い知見を得ることができた。また、キラルパラジウムエノラートの反応を、β-ケトエステルを基質とする求電子的フッ素化に応用した。我々の反応は、触媒量のPd錯体で進行し、これまで化学量論量の試薬が必要であった従来法を大きく改善することができた。更に、Pd錯体が水に対して安定であるという知見をもとに、プロトン性溶媒(エタノールや水)中で反応を行うことに成功したこの結果は、本反応が環境調和性の高い反応であることを示している。得られたα-フルオロ-β-ケトエステルは、β-ヒドロキシカルボン酸やβ-アミノ酸のα-フッ素体に誘導することにも成功した。
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