今日寄生虫症対策が世界的な重要課題となっている中、北里研究所で発見された選択毒性の高い新規抗寄生虫活性物質ナフレジンは今後の医薬品としての開発が期待されている化合物である。またナフレジンを弱アルカリ条件下で処理することにより得られるナフレジン-AT(ナフレジン-γに改名)がナフレジンと完全に同じ抗寄生虫活性及び選択性を示すことを明らかにしている。このナフレジン-γの構造はナフレジンよりもシンプルな構造をしていることから、ナフレジン-γの全合成はナフレジンのものよりも効率的に確立でき、サンプル供給や誘導体合成研究も容易になると考えられた。そこで著者らはまず始めにナフレジン-γの全合成研究に着手した。全合成経路は誘導体合成を考慮してコンバージェントな方法を採用した。その結果、Sharplessの不斉ジヒドロキシル化反応及びエポキシ化反応を鍵反応として合成したラクトン構造を有する鍵中間体スタナン化合物と、ナフレジンの全合成の際合成していた中間体より容易に得られる側鎖化合物とのStille couplingを最終工程に用いることにより、計18工程、全収率14.7%でナフレジン-γの全合成を達成することができた(現在論文作成中)。これによりナフレジン-γの大量合成が可能となり、実際にgスケール合成を進めている。そして培養による取得が困難であったため行うことができなかったナフレジン-γの動物試験へとサンプルを供与していく予定である。またナフレジン-γの誘導体合成も非常に容易となったため、現在並行して誘導体合成も進めており、構造活性相関を調べると共により優れた抗寄生虫剤を開発していく予定である。
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