近年、ラジカル反応において安全な原子移動反応や1電子移動反応の開発が望まれている。また、一般に、ラジカル種は水に対して安定であることから、ラジカル反応は厳密な無水条件などを必要とせず、中性条件下で反応を行うことができる。これまでに我々は水中でも使用可能なラジカル開始剤としてトリエチルボランに着目して研究を行ってきた。そこで、平成15年度は、金属亜鉛の1電子移動能に着目し、イミン類の水中ラジカル付加反応を検討した。N-スルホニルイミンへの水中炭素ラジカル付加反応を飽和NH_4Cl水溶液存在下、ヨウ化アルキルと亜鉛を用いて行ったところ、副生成物として還元体が少量生成するものの、反応は速やかに進行し付加体が収率良く得られた。また、カンファースルタムを有するイミン類への立体選択的水中ラジカル付加反応も進行し、α-アミノ酸の新規不斉合成法を確立した。 次に昨年度、我々が開発したインジウムをラジカル開始剤とする水中分子間ラジカル付加反応を、タンデム型反応へ展開した。ビニルスルホンと活性化されていないオレフィンを有する基質のインジウムによる水中ラジカル反応を検討した。その結果、付加-閉環-ヨウ素化が進行した閉環体が高収率で得られた。本反応の特徴としては、二つの炭素-炭素結合と一つの炭素-ヨウ素結合を一段階で構築する点が上げられる。さらに、ヒドラゾンを有する基質のタンデム型付加-閉環反応も速やかに進行し、付加-閉環体が高収率で得られた。
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