ショウジョウバエSproutyは、チロシンキナーゼ型受容体を介したERK-MAPキナーゼ系活性化シグナルを抑制するRasインヒビターとして報告されたが、その阻害様式の詳細は明らかではない。一方、哺乳類では4種類のSproutyアイソフォームが存在し、よく保存されたC末側に比べるとN末側のホモロジーが低く、各Sprouty分子間には機能的多様性があると考えられた。そこで、全Sprouty mRNAの発現機構を検討すると共に、アイソフォーム共発現系における各Sprouty間の相互作用やERK系シグナルに対する影響をトータルに解析することで、哺乳類SproutyによるERK系シグナル抑制機構の解明をめざしている。 マウス繊維芽細胞に対して増殖因子刺激を行うことで、各種Sprouty mRNAの発現は一過性に誘導されたが、そのピークに達する時間はアイソフォームによって差が見られた。また、293T細胞等での各Sprouty単独過剰発現系では、Grb2やSOS-1等との結合親和性や増殖因子刺激によるSprouty自身のチロシンリン酸化レベルなどがアイソフォーム間で異なっていたが、どのSproutyもFGFによるERK系の活性化を抑制した。更に、各Sprouty遺伝子のコトランスフェクションによる複数のアイソフォーム共発現系において、SproutyはC末側のシステインリッチ領域を介してヘテロオリゴマーを形成し、ERK系活性化シグナルに対する抑制効果はアイソフォーム共発現により増強された。 1種類の分子種のみであるショウジョウバエSproutyに対して、4種類存在する哺乳類Sproutyは、C末側でヘテロ複合体を形成し、N末側でアイソフォーム特異的な標的分子と相互作用することで、よりフレキシブルに機能している可能性がある。
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