研究概要 |
従来,細胞膜内外のガス分子の通過は自然拡散であり,特定の輸送機構は存在しないと考えられてきた.しかし研究代表者の以前の成績によって,肺胞II型上皮細胞がI型細胞へと分化するのに伴い,細胞膜のCO_2ガス透過性は著明に亢進することが判明した.そこで本研究では,肺胞上皮細胞の分化によって発現量の変化する膜蛋白質の中にCO_2ガス分子の輸送を促進するものがあるという仮説の基に,種々の膜蛋白質のガス透過性をアフリカツメガエル卵母細胞発現系によって評価した. まず,II型細胞がI型様の細胞へと分化するのに伴い,水チャネルの1種であるaquaporin-5 (AQP5)の発現量が著明に増加することを見出した.そこで次に,AQP5のガス透過性を調べた.AQP5を発現させた卵母細胞の細胞膜はコントロールに比べ約2倍と,高いCO_2ガス透過性を示した.AQP5と同様に,他のAQPサブタイプであるAQP1,2,3,4,9はいずれも卵母細胞のCO_2ガス透過性を亢進させたが,glucose transporterおよびurea transporterでは著明な変化は生じなかった.さらに,AQP1の種々の変異体を作成し,AQPによる水とCO_2ガスの輸送機構の違いを検討したが,水とCO_2はAQP分子中の同一のポアを通過している可能生が考えられた.しかしAQPのリン酸化によって水の透過性だけが亢進しCO_2ガス透過性には影響しないことが判明し,これに加え,AQPの各サブタイプの透過性を比較すると水とCO_2ガスでは必ずしも相関しないことが分かった.すなわち,AQPによる水分子とCO_2ガスの透過性調節機構には違いのあることが推定された.これらの成績は,従来全く調べられていなかったガス分子の細胞膜透過性が,膜蛋白質によって調節されていることを示す,重要な基礎データと成り得る.
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