研究概要 |
HIV-1の複製を強力に抑制する多剤併用療法(HAART)の導入により、HIV-1感染症/AIDSに対する治療効果が著しく向上し、それに伴いHIV脳症発症率の低下も認められるようになった。しかしながら、生涯続けなければならないと考えられている現行のHAARTによって、今後、長期的にみて、このHIV脳症発症率低下が持続されるかは全く不明である。一方、世界に目を向ければ、十分なHAARTを享受できない発展途上国を中心に、HIV感染者が爆発的に増加している現状である。このような状況から、現在、新たなHIV-1複製阻害薬の開発と共に、HIV脳症の発症機序を明確にし、その予防薬・治療薬の開発は必要不可欠であると考えられる。 本年度は、HIV-1が関与する神経障害のin vitroモデルの構築を行い、その特徴づけを行った。その結果、以下に示す結果が得られた。1).HIV-1感染細胞培養上精(supn.)を加えて,3-4日後に細胞死を誘導する遅延性の細胞死誘導活性を示す。2).HIV-1感染細胞supn.を10-1000倍に希釈しても十分に神経細胞死が誘導される。3).HIV-1感染細胞supn.を神経細胞に数時間パルスするだけで十分に細胞死を誘導できる。4).HIV-1感染細胞supn.をパルスし、数日培養した神経細胞の培養上清が,神経細胞死を誘導する活性をもつ。5).この神経細胞死の誘導は,HIV-1の感染をブロックする中和抗体,デキストラン硫酸,CXCR4のアンタゴニスト,あるいはNMDA受容体のアンタゴニストで阻害がかからない。6).この神経細胞にHIV-1は感染しない。7).非感染細胞supn.では細胞死を誘導しない。8).これまでに以上に示した現象の報告はない。このことを踏まえ、平成15年度は特にHIV-1感染細胞supn.を処理した神経細胞におけるプロテオーム解析を行い、特異的な発現の変化が認められるタンパク質群を同定し、その細胞死誘導機構の解明およびそれに基づいた治療薬・予防薬開発のための評価系構築を行う予定である。
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