脳疾患の治療として株化された神経幹細胞を用いることや、内在性の神経幹細胞を。増殖・分化させて神経を再生させようとする試みがある。いずれにしろ、神経幹細胞の自己増殖能あるいは多分化能を理解することが極めて重要である。 神経幹細胞は上皮増殖因子(EGF)あるいは繊維芽細胞増殖因子(FGF2)により増殖が促進されるが、それらの増殖因子を培地中から除くと細胞死が誘導されることより、EGFやFGF2は神経幹細胞のアポトーシスを抑制することにより増殖を促進していることが考えられる。そこで、このEGFやFGF2などの増殖因子によるアポトーシス抑制機構の解明を目的に研究を行った。材料として培養条件により神経細胞に分化する株化されたヒト神経芽腫細胞を用いた。まず、この神経細胞株に細胞死を誘導する物質のスクリーニングを行うと、6-ヒドロキシドパミンが細胞死を誘導し、その細胞死が顕微鏡による観察の結果アポトーシスであることがわかった。次にこの神経細胞株に対するEGF、FGF2、肝細胞増殖因子(HGF/SF)、神経成長因子(NGF)、レチノイン酸の作用を調べると、NGF、レチノイン酸処理により細胞の突起が伸長し、分化誘導することがわかった。さらに、NGFとレチノイン酸の前処理は6-ヒドロキシドパミンが誘導するアポトーシスを有意に抑制し、アポトーシスが誘導されたときに活性化されるプロテアーゼであるCaspase-9の活性化や、その基質であるポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの分解を抑制した。増殖因子によるアポトーシス抑制機構としてアポトーシス抑制性Bcl-2ファミリー分子の発現誘導や、アポトーシス促進性Bcl-2ファミリー分子のリン酸化による不活性化が報告されているが、NGF、レチノイン酸のいずれの処理によってもアポトーシス抑制性Bcl-2ファミリー分子であるBcl-2やBcl-X_Lの発現誘導は見られなかった。現在、PI3-キナーゼを介する経路によるアポトーシス促進性Bcl-2ファミリー分子のリン酸化について検討しているところである。
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