我々が既に単離した脂肪細胞由来ロイシンアミノペプチダーゼ(A-LAP)の生理機能を解明する目的で、A-LAPの細胞内の局在を検討した結果、小胞体内腔に存在するという他のアミノペプチダーゼには全くみられないユニークな特徴を持つことを見いだした。次に、A-LAPの小胞体内における役割として、A-LAPが近年その存在が示唆されてきた内在性抗原ペプチド前駆体を消化する「N末端トリミング酵素」として機能する可能性について検討した。その結果、組み換え型A-LAPの酵素学的性状はこれまでに報告しされているN末端トリミング酵素のそれと非常によく似ていた。また、細胞小胞体画分から抗A-LAP抗体を用いてA-LAPを除去した際には、同画分における抗原ペプチド前駆体消化能が著しく低下した。これらの結果から、A-LAPがこれまでにその分子実体が不明であった小胞体内腔の内在性抗原ペプチド前駆体N末端トリミング酵素であることをはじめて明らかにした。さらにA-LAPはインターフェロン-γによって発現亢進を受けることも見いだした。このことは、A-LAPがウィルス感染細胞やガン細胞内で積極的に機能することで、細胞障害性T細胞に対して異常タンパク質の存在を提示し、不要な細胞の除去効率を上げるという、生体防御機構が存在する可能性を示唆する結果である。 A-LAPの反応機構や小胞体局在のメカニズムを解き明かすため、本酵素の立体構造の解明を進めている。昆虫細胞を用いた大量発現系の構築が完了し、得られた組み換え型酵素を用いたタンパク質の結晶化を試みている。結晶化条件を種々試みているものの、まだX線構造解析に十分な結晶は得られていない。今後も継続して結晶化・構造解析を進める予定である。 また、オキシトシナーゼサブファミリーに属し、小胞体内腔に存在するA-LAPとは異なる新規酵素の単離にも成功した。この新規酵素についても内在性抗原ペプチド生成への関与を中心にその生理機能の解明に関する解析を進めている。
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