研究概要 |
本年度の研究実施計画に基づいて研究を行い、以下の新しい知見が得られた。 1)Ets-1のアンチセンス遺伝子を導入したヒト癌細胞と対照細胞から細胞膜糖タンパク質を調製し、種々のレクチンを用いて糖鎖構造を解析したが顕著な変化は見られず、この方法では解析が困難であると考えられた。そこで、Ets-1の発現を抑制することが知られているプロテインキナーゼCの阻害剤スタウロスポリンでヒト大腸癌細胞SW480を処理すると、分子量90K-135Kの糖タンパク質で高分岐糖鎖の生合成やガラクトシル化が抑制されていた。 2)SW480をスタウロスポリンで処理すると、β-1,4-GalT Vや糖鎖の高分岐化を作り出すGnT Vの遺伝子発現が対照に比べて30-40%低下していた。 3)レクチンブロット解析の結果では、糖鎖の変化が90K-135Kの糖タンパク質で見られたことから、フィブロネクチンレセプターの糖鎖修飾も変化している可能性が考えられた。そこで、スタウロスポリン処理によるSW480細胞のフィブロネクチンへの接着性を解析した。その結果、スタウロスポリンで処理した細胞は対照細胞に比べて、フィブロネクチンへの接着性が最大で2倍増大しており、正常細胞で見られるようにフィブロネクチンへの接着性が増強されていた。 以上の知見から、癌細胞において高分岐糖鎖を作り出すGnT Vとβ-1,4-GalT Vを同時に制御して、癌細胞に特徴的な糖鎖の合成を抑制し、細胞の機能を正常へと導くことが可能であると考えられる。
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