まず、本研究に必要となるHIV gp120タンパク質の精製を行っている。Gp120発現細胞を40L培養し、その培養上清を限外ろ過膜を通すことで10倍に濃縮し、DEAE-sepharoseカラム、phenyl-toyoparlカラム、Galanthus nivalis lect in agaroseカラムの順に精製を進めた。精製したタンパク質を銀染色法で検出した結果、gp120由来のバンドを確認することができた。次のステップとしてgp120抗体カラムおよびゲルろ過カラムによる精製を検討中である。一方、gp120の代わりにアクチノヒビン(AH)が結合することが明らかとなっている高マンノース型糖鎖を持つリボヌクレアーゼB(RNase B)を用いて、糖タンパク質からの糖鎖精製を試みた。その結果、糖タンパク質そのものを酵素で消化し、糖鎖を切り出すことは効率が悪い上に大量の酵素が必要になることから中断した。糖タンパク質をタンパク質分解酵素でペプチド断片化したのち、AHに親和性を示すペプチドについて糖鎖を切り出す方向で検討を進めている。また、AHと市販の蛍光標識糖鎖を用いて、特に高マンノース型糖鎖との親和性測定方法を立ち上げ中である。 AHとgp120の結合はマンノースなどの単糖類存在下では阻害されないが、酵母マンナン(α型マンナン)存在下で強く阻害されることが分かっている(IC50=3 μg/ml)。そこで酵母マンナン以外のオリゴマンノースやβ型マンナンなどの多糖類の存在下でAHとgp120の結合への影響を調べた結果、β1-4結合型のほぼ直鎖のポリマンノースであるコーヒーマンナン存在下において阻害された(IC50=3 μg/ml)。一方、コーヒーマンナンの熱加水分解物では阻害活性は薯しく低下し、酵母マンナンにおいては阻害が見られなくなった。また、α型・β型マンノペンタオースやガラクトマンナン、グルコマンナンなどでは阻害されないことから、AHとgp120の結合はマンノースからなる多糖類にのみ特異的に阻害され、さらにいくつかのマンノース分子が重合している必要があると考えられた。AHはgp120以外の高マンノース型糖鎖を持つ糖クンパク質であるRNase Bやthyroglobulinにも結合するが、その結合はgp120に比較すると弱いことがELISA変法により確認されている。他の糖クンパク質に比べてgp120の糖鎖含有率が非常に高く、分子表面の糖鎖密度が高いことが、他の糖タンパク質に比べAHとの親和性の高さに結びついている可能性がある。これについては、各種糖類糖タンパク質とAHのアフィニティ解析を分子間相互作用解析装置を用いて結合速度や解離速度の点から検討を行っている。また、AHがgp120糖鎖だけでなく部分構造も認識している可能性もあるため、精製したgp120をペプチド化し、二次元電気泳動法によりAHと親和性の高い断片の検出を行う予定である。
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