AHはHIV-1 gp120の糖鎖に結合することが明らかとなっているが、どのような糖鎖構造を認識しているかについて、まずAH-gp120結合を阻害する糖類について検討を行った。昨年度の結果から、AH-gp120の結合はα型マンナンである酵母マンナンで強く阻害され(IC_<50>=3μg/ml)、この阻害にはいくつかのマンノースが重合している必要があると考えられた。そこで、酵母マンナンの構成糖であるα型マンノビオースを用いてAH-gp120結合への影響を調べた結果、高濃度ではあったがα1-2マンノビオースのみがIC_<50>=5.1mMで両者の結合を阻害した。さらに、マンノース残基を一つ増やしたα1-2マンノトリオースでは、IC_<50>=0.92mMで阻害がみられたことから、AHとgp120の結合にはα1-2結合マンノース側鎖が関与すると考えられた。HIV gp120にはアスパラギン結合型糖鎖が存在するが、α1-2結合マンノース側鎖を持つのは高マンノース型糖鎖である。そこで、α1-2結合マンノース側鎖を特異的に切断する酵素で高マンノース型糖鎖を持つ糖タンパク質thyroglobulin(THG)を切断し、AHとの結合を分子間相互作用解析装置で調べた。なお、HIV gp120タンパク質は少量しか確保できていないため、AHと結合することが確認されているTHGを代用した。その結果、酵素処理したTHGではAHとの結合が顕著に減少したことから、AHと糖タンパク質との結合には、高マンノース型糖鎖のα1-2マンノース側鎖が重要であることが明らかとなった。この結果は、HPLCと蛍光標識糖鎖を用いたフロンタルアフィニティークロマトグラフィーにおける実験結果とも一致した。 一方、AHと糖タンパク質との親和性について分子間相互作用解析を行った。その結果、AHを固定化した条件において、AHは高マンノース型糖鎖を複数持つgp120やTHGと強い親和性を示したが、高マンノース型糖鎖を1つしかもたないribonuclease B(RNase B)に対しては、ほとんど結合しなかった。他のマンノースを認識するレクチン(snow drop lectin)では、同様な条件でRNase Bとの結合が確認されたことから、AHは複数の高マンノース型糖鎖を持つ糖タンパク質と強い親和性を示すと考えられた。
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