これまで神経活動を制御する神経ステロイドは核内受容体に結合し、遺伝子転写を介してその作用を発揮すると言われてきた。それに対して本研究者らは別の2つの神経ステロイドの作用点を明らかにした。すなわち細胞膜上のG蛋白質連関型受容体を作用点とした細胞内情報伝達と微小管蛋白質MAP2を作用点とした微小管重合作用の存在である。さらに驚くべきことに、内分泌撹乱物質も同じ作用点をターゲットとし、神経ステロイドによる複雑な神経調節を混乱させるという仮説に行き着いた。そこで昨年度は、脳高次機能に重要な神経新生や再生と関連づけ、内分泌撹乱物質による「キレる」「注意欠陥多動症」といった精神行動異常についての研究を行い、ストレスにより脳内で変動する神経ステロイドがMAP2への結合を介して微小管重合を制御し、海馬神経細胞の樹状突起伸展を制御することを明らかにした。 本年度はうつ病を含む気分障害についての研究を行った。うつ病における神経細胞の形態的変化として、海馬の樹状突起の萎縮が挙げられる。樹状突起の形態形成の分子基盤は、微小管とMAP2の相互作用による微小管重合である。学習性無力、強制水泳による強制うつ病モデルマウスの脳室内に神経ステロイドを投与し、抗うつ評価を行った。その結果、いずれのうつ病モデルにおいても脳室内に投与したプレグネノロンに有意なうつ改善効果が観察された。 以上のように、注意欠陥多動症やうつ病などの神経線維の可塑的な変化にひとつの原因がある神経疾患に対して、微小管重合反応促進による症状改善が見込まれ、神経ステロイドなどMAP2に作用する物質が治療薬になる可能性が考えられる。
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