研究概要 |
本年度は、リン酸化型CaMキナーゼII (pCaMKII)の上昇は、環境ホルモンに共通の作用であるのか否かを調べるために、これまで申請者らが検討してきたエストロゲン活性を有する環境ホルモンであるDESに加え、甲状腺ホルモン活性をもつと考えられるPCB類のうち水酸化体PCBについて行動科学的および神経科学的検討を行なった。 1.行動科学的実験 マウスの胎仔期後期に母体を介して水酸化体PCB (4-OH-2',3,3',4',5'-pentachlorobiphenyl)を0.1μg/animal/day曝露した。その成長後の仔マウスにオープンフィールド試験を行なったところ、生後4週で水酸化体PCB曝露マウスは雌雄ともに歩行量および立ち上がり動作が対照群に比べて著明に増加した。また、生後6-7週で受動的回避試験を行なったが、雌雄のマウスともに対照群との間に差はなかった。さらに、加齢に伴う行動の影響を調べるため、生後12ヵ月で同様の行動実験を行なったところ、水酸化体PCBを曝露した雌マウスの歩行量は若干増加したが、雄マウスには差はなく、受動的回避反応も雌雄のマウスともに対照群との間に差を認めなかった。 2.神経科学的実験 上記の行動実験から、pCaMKIIは生後4週のマウスの扁桃核、大脳皮質および海馬で測定した。扁桃核では水酸化体PCB曝露群の雄でpCaMKIIαが、雌ではβの量が対照群に比べ有意に減少した。また、大脳皮質でも雌のpCaMKIIαおよびβの量が有意に減少した。しかし海馬ではpCaMKIIは変動しなかった。 以上の結果から、低用量水酸化体PCBの胎仔期後期曝露は情動行動を増加させ、脳に何らかの影響を及ぼすことが示唆された。また水酸化体PCB曝露マウスはDESの場合とは異なり、pCaMKIIを減少させたことからpCaMKIIの上昇はエストロゲン活性をもつ環境ホルモン特有の作用である可能性が考えられる。しかし今回、環境ホルモンのホルモン活性の違いによりpCaMKIIの挙動が異なっていたことは注目すべき点であり、環境ホルモンのホルモン活性を区別するなど、脳撹乱作用を評価するうえでpCaMKIIはひとつの指標になり得るものと考えられる。
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