本年度はリン酸化型CaMキナーゼII(pCaMKII)を指標にした環境ホルモンの脳撹乱作用を評価する一環として、昨年度作製したPCB水酸化体の低用量曝露マウスを用いて、生後17ヶ月齢の加齢マウスにおける情動行動やCaMKII、pCaMKIIのレベルについて調べた。その結果、雄マウスでは歩行量や立ち上がり行動が減少し、これらのマウスの扁桃核においてCaMKIIの基質であるシナプシンIが有意に増加した。また、雌マウスでは歩行量や立ち上がり行動が増加する個体も見られたが有意な差はなく、扁桃核におけるpCaMKIIなどのレベルにも変動は認められなかった。これらの結果から、加齢マウスにおいても、環境ホルモン曝露による情動行動の異常と扁桃核のpCaMKIIやシナプシンIのレベルとの間には何らかの関連性があり、pCaMKIIは脳撹乱作用の評価に有用である可能性が示唆された。またDES曝露マウスでは、これまで6週齢の雄海馬のpCaMKIIレベルは増加するが、同腹子の雌海馬(9週齢)では変動が認められていない。この雌雄差の原因は不明であり、pCaMKIIを脳撹乱作用の評価系として用いていく上での問題点といえる。そこで、本年度はDES曝露マウスのpCaMKIIレベルに雌雄差が生じるメカニズムについても調べたところ、DESを曝露した4週齢の雌マウスの卵巣を摘出すると、6週および9週齢の海馬でpCaMKIIレベルが増加することがわかった。このことから、雌マウスのpCaMKIIレベルはエストロゲンなどの卵巣由来の内在性ホルモンにより調節されているものと考えられる。このように本研究で得られた成果は、pCaMKIIレベルを指標とした脳撹乱作用の評価系を確立していく上での基礎知見となり得るものである。
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