プリオン病は、プリオンタンパク質(prion protein ; PrP)の異常蓄積により引き起こされる致死性の神経変性疾患である。本研究では、種々のヒト臓器、ヒト由来培養細胞およびマウスを用いて、PrPの遺伝子発現量の解析を行い、その遺伝子発現制御や制御因子について検討した。種々の細胞を用いてPrP遺伝子の発現量の解析をした結果、PrP遺伝子の発現量は解糖系酵素であるglyceraldehyde-3-phospate dehydrogenase(GAPDH)の発現量と相関していることがわかった。種々の細胞におけるGAPDHの発現量を比較した結果、特に核でのGAPDHのタンパク質の発現量がPrP mRNAの発現量に良く相関していた。GAPDH誘導剤であるaraCを添加した結果、PrP mRNAの発現量はHEK293細胞およびHepG2細胞で増加した。また、核内GAPDH isoformの発現はHEK293細胞ではbasic isoformが減少、HepG2細胞ではacidic isoformが増加していた。GAPDH mRNAのantisense oligonucleotide(GAPDH AS)の導入はT98G細胞においてPrP mRNAの発現量は減少させた。GAPDHの発現量はGAPDH ASの導入により減少しなかったが、核内におけるGAPDH isoformは、basic isoformの発現が増加していた。以上のことから、PrP mRNA発現量は、解糖系酵素であるGAPDHにより制御されていることが示唆された。また、PrP遺伝子の発現を制御するGAPDHにはisoformが存在し、そのisoformの違いにより、PrP遺伝子の発現調節に対して正と負の相反する調節を行っていると考えられた。
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