薬物の脳関門透過性は脳疾患薬物治療成功の鍵を握る。脳関門機能は脳関門実体である脳毛細血管内皮細胞とその周囲を覆う星状膠細胞や周皮細胞によるパラクライン作用によって制御されるがその分子機構はほとんど不明である。申請者らのグループはこれまでに脳関門を構成する脳毛細血管内皮細胞、星状膠細胞、周皮細胞の条件的不死化に成功している。本研究ではこれらの細胞共培養によるin vitro脳関門モデル系を用い、脳関門において薬物透過性を左右する分子が星状膠細胞や周皮細胞によってどのように制御されるか解明することを目的とした。その成果として、星状膠細胞と脳毛細血管内皮細胞の接触及び星状膠細胞が産生する液性因子の作用によって脳関門の排出輸送機構として重要なP糖蛋白及びABCG2トランスポーターの発現量が上昇することが明らかになった。脳関門のdiffusionバリアとして働く密着結合分子occludinの発現量は星状膠細胞及び周皮細胞が産生する液性因子によって上昇することを示した。さらに、周皮細胞由来の液性因子のうち、angiopoietin-1がoccludin発現量を上昇させること、脳毛細血管内皮細胞はangiopoietin-1受容体であるTie-2を発現していることが明らかになった。以上から、両細胞間のパラクライン分子機構の一つとして、occludin発現を制御するangiopoietin-1/Tie-2経路が同定された。本研究によって、脳を守る仕組みである脳関門異物排出機構及びdiffusionバリア機構が周囲の細胞が産生する液性因子によって維持されていることが示唆された。
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