本研究では、オピオイド鎮痛薬のPharmacokinetics(PK)/Pharmacodynamics(PD)解析系確立のため、脊髄における薬物濃度、痛覚伝達物質であるグルタミン酸(Glu)の遊離抑制作用ならびに鎮痛作用の同時測定を、ラット脊髄微小透析法を用いて行った。モルヒネの脊髄Glu遊離抑制作用と鎮痛作用は、脊髄のモルヒネ濃度に依存して増加した。両作用のEC_<50>(最大反応の50%の作用を発現する薬物濃度)は同程度であったことから、モルヒネの鎮痛作用発現に、脊髄でのGlu遊離抑制作用が関与することが示唆された。さらにこの実験系を用いて、モルヒネとモルヒネ-6-グルクロナイド(M6G)のPKとPDについて比較した。モルヒネとM6Gをラットに皮下投与したところ、M6Gの濃度時間曲線下面積はモルヒネのそれの1.7〜1.9倍高かった。M6Gはモルヒネに比べ低用量で鎮痛作用を発現し、投与量を基準にしたM6Gの鎮痛効力は、モルヒネと比べ3〜4倍強いことが示された。一方、脊髄の薬物濃度より求めたEC_<50>は、モルヒネとM6Gで同程度であり、両薬物の濃度を基準にした鎮痛効力はほぼ等しいことが示された。また、モルヒネがGlu遊離抑制作用を示したのに対し、M6GのGlu遊離抑制作用はほとんどみられなかった。これより、M6Gの鎮痛作用発現おけるGlu遊離抑制作用の寄与は小さいことが示唆された。 以上、本研究で確立した、鎮痛作用、脊髄薬物濃度およびGlu遊離抑制作用の同時解析系により、薬物濃度に基づいて評価したモルヒネとM6Gの鎮痛効力は同程度であることが示された。またモルヒネの場合と異なり、M6Gの鎮痛作用発現における脊髄でのGlu遊離抑制作用の関与は少なく、両薬物の鎮痛作用発現メカニズムの相違が示唆された。
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