研究概要 |
Glutathione S-transferease等の薬物代謝酵素の遺伝子プロモーター上にはantioxidant response element (ARE)が存在し,転写因子Nrf2により調節される.種々の化学物質はNrf2を活性化する可能性があり,これらの化学物質による薬物代謝酵素の活性化は薬物動態に対して影響を及ぼすと考えられる.本年度の研究において,種々の化学物質によるAREを介する転写調節について検討した.実験は,2個のAREコンセンサス配列をタンデムに並べたエンハンサー配列をSV40プロモーターを有するルシフェラーゼレポーター遺伝子の上流に組み込んだコンストラクトを作成し,ヒト肝ガン細胞株HepG2細胞に一過性に導入した.この細胞に種々の化学物質を作用させた後,ルシフェラーゼ活性を測定することにより,化学物質刺激による転写活性の変化について検討した.今回のスクリーニングには酸化的ストレスの惹起物質のmethylglyoxal,カドミウム,menadione,7-keto-cholesterol,1-chloro-2,4-dinitrobenzene,ステロイドホルモンの17β-estradiol,dexamethasone,カレーに含まれる黄色の抗酸化物質のcurcuminを用いた.その結果,curcuminのみがAREを介する転写を上昇させた.またこの作用はdominant-negative Nrf2の導入により抑制された.さらにMAP kinaseのERK,JNKおよびp38の上流のMAPKKであるMEK1,SEK1およびMKK3のdominant-negative体を導入したところ,dominant-negative MKK3によりcurcuminの効果が抑制された.以上の結果より,curcuminはp38MAP kinase経路を介してNrf2を活性化し,AREを介する転写を上昇させることが示唆された.curcuminには抗ガン作用や抗炎症作用等があることが知られているが,これらの作用の一部はAREを介した種々の遺伝子の転写調節による可能性が示唆された.
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