薬物の乳汁移行は、乳児に対する薬物曝露の点で重要な問題であるにもかかわらず、その可能性を正確に評価できるスクリーニング法はない。本研究の目的は、乳汁移行性を評価できる授乳期乳腺上皮特性に類似したヒト乳腺上皮細胞(HMEC)培養系を確立し、授乳婦への投与の可否のスクリーニングに利用することである。 昨年度に確立した種々ホルモン添加に加え、マウスMECで機能分化が報告されているtrypsin抵抗性細胞培養法を応用したmonolayerの形成を試みた。その結果、二回のtrypsin処理に抵抗性を示したHMEC(double resistant HMEC)は、最も高い経上皮抵抗値(平均203.3Ω・cm^2)を示し、mannitol透過性(transfer coefficient=4.69 × 10^<-3>cm/h)の点からもToddywallaらの示した条件(transfer coefficient=14 × 10^<-3>cm/h)を満たすものであった。organic cation transporter(OCT)の基質であるtetraethylammonium(TEA)の輸送は、double resistant HMECにおいてbasalからapical方向への輸送口がその逆方向よりも有意に高かった(p<0.05)。一方、organic anion transporterの基質であるp-aminohippuric acid(PAH)の輸送には、すべての細胞において方向性が観察されなかったRT-PCR法によりtrypsin抵抗性細胞のhOCT1 mRNAの発現を調べたところ、trypsin処理に抵抗性を示したHMECでは発現が明確であったのに対し、抵抗性を示さなかったものでは極わずかであった。この結果は、ヒト乳腺非授乳期に比べて授乳期で増加するという報告に一致し、HMECを用いた本培養法は授乳期の機能発現を誘導していると考えられた。 以上の結果から、本研究で確立したHMEC培養系は、授乳婦への薬物授与可否をスクリーニングするための評価系として利用できるものと考えられた。
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