介護老人保健施設に入所している高齢者を対象に園芸療法を行なった。 園芸療法実施前と園芸療法のセッションが8回終了した時点の計2回、対象者本人に対して主観的な幸福感の程度を測定する目的でPGCモラールスケールと、痴呆の程度を測定する目的でMMSEの2つの尺度を用いて調査した。また、同時期に施設スタッフに対して、客観的なQOLを測定する目的で痴呆高齢者の生活の質尺度(QOL-D)と、介護負担の程度を測定する目的で痴呆行動障害尺度の2つを用いて調査した。調査結果を施設退所により園芸療法を中断した者等を除いた7名についてみると、園芸療法実施前のMMSEから、中度痴呆より軽症の者が5名、重度痴呆の者が2名であった。軽症の者5名のうち4名はその後のMMSE得点が改善あるいは変化がみられず、1名は得点が低下していた。重度の者では1名は得点が改善し、1名は得点が低下していた。また、QOL-Dの自分らしさの表現に関する項目については、軽症の者5名中、得点が改善あるいは変化がみられなかった者が3名、重度の者では2名とも低下しているという結果であったが、これらのデータからは顕著な変化はみられなかった。 また毎回約一時間のセッション終了後には、運営の方法や参加者の様子についてカンファレンスを行なった。運営方法については研究者が作成した園芸療法運営記録用紙に基づき検討し、また各参加者の様子については自由記載欄とこれまでの様々な園芸療法に関する文献を参考にチェック項目を挙げた集団園芸療法日誌を作成し、記録、検討した。集団園芸療法日誌から各セッションを振り返ると、重度痴呆でリハビリの度に「初めて来た」と言われる方が、何色のチューリップの球根を植えたのかと覚えていたり、別の中度痴呆の方は植えたチューリップの芽が出ないと頻繁に植木鉢を覗きに来られたりと、対象者に何らかの刺激をもたらしている可能性が示唆された。
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