本研究は、痴呆高齢者自身の病気の受けとめ方や病気をもつ自分についての認識を明らかにすることを目的としている。精神科外来に通院する軽度から中等度の記憶障害のある男性高齢者2名、在宅で生活し、老人保健施設のデイケアに通う男性高齢者2名、計4名を対象に彼らと彼らの配偶者からの面接によってデータを収集した。本研究の目的と方法を対象者の主治医及びケースマネージャーに説明し許可を得た。さらに、研究目的とデータ収集方法及び途中で面接をやめられる権利について本人及び配偶者双方の同意を口頭で得て、データ収集を行った。面接は1回30分程度で2-3回の面接を1ヶ月間隔で行った。病気についての思いを語ってもらいその内容を質的に分析した。面接場面には、主たる介護者である配偶者にも本人の語りを補足する目的で同席を依頼し許可を得た。 面接で得たデータは、逐語で記録し、それを質的に分析しカテゴリーに分類した。これらは、"自分への情けなさ"、"自律した日常生活ができなくなることへのとまどい"と"日々生きること自体が闘い"また、"一人で悩む"、"将来への不安"である。分析過程で質的研究の専門家のスーパーヴァイズを受け分析の信頼性を高めた。 対象者達は、記憶の障害を自ら認識し始めた後も、家族が気づくまで一人で悩んでいる状態が浮き彫りになった。自らが記憶障害に気づいてもすぐに適切な医療機関にかかる行動をとることは、対象者にとって困難であった。そのため、広くものわすれ外来や保健センターの機能の情報を普及させる必要性が示唆された。初期の痴呆高齢者を把握できる、地域を拠点としたサービスシステムの構築の必要性もまた示唆された。本研究は4事例と少数の事例研究であり、結果を一般化することはできないことが本研究の限界であるが、今後事例を重ねていくことで痴呆高齢者の病気の認識のプロセスを明らかにしていきたい。
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