目的:1.終末期癌患者における褥瘡好発部位皮膚の形態学的特徴を組織学的に明らかにする。 2.組織耐久性について組織学的に明らかにする。 対象:これまで研究者が直接褥瘡ケアに関わった患者で、褥瘡の有無に関わらず、過去に化学療法をうけた剖検患者である。患者および遺族に研究の趣旨を説明し、同意が得られた対象とした。 方法:1.剖検時、褥瘡好発部位でかつ圧迫の加わっていた皮膚、および褥瘡保有者は褥瘡部位皮膚、圧迫が加わらない皮膚(腹部)を採取し、採取前後の肉眼的な形態的特徴を記述する。 2.日常生活状況から褥瘡発生に影響する要因を明らかにする。 3.組織学的に観察し、組織耐久性に影響を与えている所見について3と併せて検討する。 結果:本年度はこれまでの研究の症例において、光学・電子顕微鏡により目的2についての検討を行った。組織耐久性は、外力からの組織耐久性として捉え、主に弾性線維.・膠原線維に注目して検討した。 光学顕微鏡像:肉眼的にも組織学的にも褥瘡所見がなかったものは、真皮乳頭層での弾性線維は垂直方向で一致していた。組織学的に褥瘡があった症例では、真皮乳頭層における弾性線維が水平方向に変位していた。腹部組織は正常な像であった。 電子顕微鏡像:肉眼的に褥瘡はなくても組織学的に障害があった症例において、基底膜結合は保たれていたが、角質細胞の変性、真皮乳頭層部に解離と浮腫が観察された。 考察:肉眼的に褥瘡がなくても組織学的に障害があった症例では、圧力とずれ応力が組織に加わり、弾性線維の方向が変わり、更なるずれ力が加わったことで真皮乳頭層に解離をもたらし、その結果組織へ浮腫が起こったものと推察される。これはさらに圧迫・ずれ力が加わることで容易にStage IIの褥瘡へ進展する不顕性褥瘡の状態であると考えられる。終末期癌患者皮膚の組織耐久性は、電子顕微鏡像から基底膜結合部の変性は起こっていなかったこと、圧迫のかからない腹部組織の変性はなかったことから、今回検討した弾性線維・膠原線維には関係していないことが示唆された。終末期癌患者の皮膚組織は、抗がん剤による影響よりも、外力による影響を受けると考えられる。
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