精神科看護師が入院患者から受ける暴力的行為の実態と影響を明らかにすることを目的に本研究を行っている。全国的調査の質問紙作成のために、A精神科病院に勤務する看護師18名に暴力の経験に関する半構造的面接を今年は行った。 結果および考察(1)暴力の内容「身体的暴力-拳骨で殴る、平手で殴る、蹴る等」、「言語的暴力-脅迫、誹謗・中傷等」、「性的暴力-抱きつく、胸・尻を触る等」があった。(2)看護師への影響 暴力は、「切創、腫れ等の傷」「身体の緊張感」といった身体的影響や「自己嫌悪、ケアへの自信喪失、患者への恐怖・怒り」等の心理的影響を看護師に与えていた。「噛まれる」ことによる感染症罹患の可能性もあった。(3)看護師の対処 患者への怒りの感情を他者に表出している看護師がいる一方で、周囲に話したがらない者もいた。これは周囲を心配させたくない、暴力の出来事を想起することにより自身に生じる混乱や苦痛を避けたいからであった。暴力を受けた看護師は、出来事そのものを拒絶したり、合理化しようとすると指摘されているが(Lanza1983)、本研究においても同様の傾向が明らかになった。看護師は、受傷しても周囲に勧められないと受診や労災申請を行わず、これも大げさにしたくないという心理的抑制が働いた結果といえよう。看護師は、暴力の被害者としての感情と専門家としてのあるべき姿の間で揺れ動いていた。(4)サポートの内容 周囲のサポートによって助けられたと感じていた看護師もいたが、安易な励ましが逆に当該看護師を傷つけている場合もあった。暴力被害の看護師への対応として、感情を表出させ受けとめることが必要だといわれているが、今回の結果では「あえて暴力のことにふれずに、見守る」という周囲のサポートが行われている実態があった。 今回の調査により、看護師の暴力被害の実態と影響が明らかになったので、今後は対象を拡大して調査する。
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